アラブ圏にみる世界遺産

イスラム教の戒律 ラマダン

イスラム圏にはモスク(イスラム教徒の礼拝堂)やミナレット(尖塔)など、ユネスコの世界遺産に登録されているものが多く点在しています。ただしモロッコの場合、世界遺産に登録されているのはフェズ・エル・バリやマラケッシュ、古都のメクネスなど、町そのもの。これらの町ではいずれもイスラム教の生活が営まれていますから、イスラム教の生活に触れることなくモロッコの世界遺産を味わうことは難しくなります。
たとえば、モスクのミナレットからは「アル・アザーン」が1日に5回流れてきます。これはイスラム教徒に「お祈りしましょう」(アザーン。ハイヤーアッサラート)という祈りの時間を示す合図です。
旅人でもイスラム圏に長期間滞在していると、この不思議な声の響きの敬虔な気持ちになるものです。

イスラム圏を旅していると、時々「ラマダン」という行事に当たります。これはイスラム暦(ヒジュラ暦)の断食、または断食月のことです。
断食はイスラム教徒の義務のひとつで、毎年1ヵ月の間、日の出から日の入りまで食事を摂ることを禁じています。その反動で人々はラマダン最終日の日が沈むと同時に思いっきり食事をします。
ラマダンが終わった後の最初の食事を「ラマダンブレックファースト」と言い、メインのメニューは、ひよこ豆、玉ねぎ、トマトなどを羊肉または魚の出汁で煮込んだスープ「ハリラ」です。この他、串焼きのブロシェットやアラビアパン、スイーツなどが並び、まるでお祭りような大騒ぎ。街中、真夜中まで食べ物であふれかえっています。

旅人には断食の義務はありませんが、このラマダンブレックファーストは一度味わってみたいものですね。


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モロッコで生きる民族

現在、モロッコにはアラブ系ベルベル(BERBER)人が全体の65パーセント、先住民族のベルベル人が30パーセントを占めています。その他にユダヤ人とフランス人が少数ですが住んでいます。

ユネスコに世界遺産として登録されているメディナ(旧市街)は7世紀にモロッコに侵入したアラブ人が築いた街ですが、アラブ色のみで構成されているのではなく、各民族が混在して成り立っています。それぞれが融合しているというよりも、むしろ各々が独立して存在しているのです。
たとえば、世界遺産のひとつフェズのメディナであるフェズ・エル・バリ。世界一複雑で、迷路都市と呼ばれているこの街を新市街から王宮のあるフェズ・エル・ジュディド地区ヘ、さらにフェズ・エル・バリ地区へと進むとフェズの全体が把握できて、本来の姿がわかるでしょう。新市街からは3㎞ほどの距離ですので、街の空気に漂いながら歩いてみると楽しいですよ。

メディナへ入るには王宮からスマリン門へ入り、そこからフェズ・エル・ジュイド通りを進みますが、スマリン門へ向かう途中、王宮を左手側にすると、反対の右手側にユダヤ人街とユダヤ人墓地があることに気づくでしょう。
これはフェズに限ったことではなく、どこの街にもユダヤ人の街と墓地はあります。少数ながらも、ユダヤ人はモロッコの歴史の中で重要な存在として現在までこの地で生活しているのです。

先住民族のベルベル人も同様です。ベルベル人はモロッコ、アルジェリア、チュニジアの北西アフリカ3カ国の総称「マグレブ」の先住民です。
ベルベルという名は野蛮人を意味するバルバルスに由来しています。昔、ローマ人とアラブ人が非アラブ人を、そう呼んでいたそうです。当然のことながら、ベルベル人は自分たちをこのようには呼びません。彼らは自分たちを自由な人々を意味する「イマジゲン」と呼び、現在でも古代からの伝統や習慣を重んじながら生活しています。


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モロッコのイスラム教

多くの歴史的遺産は、その土地で古くから信仰されている宗教と密接な関係があります。
イスラム教は特にその傾向が強く、マラケッシュのメディナ(旧市街)はアラブ圏の多くのメディナの中で、もっともイスラム教が浸透している街と言って良いでしょう。旅人を魅了してやまないこの街の中心地ジャマ・エル・フナ広場では、イスラムの生活習慣が根付いています。
17~18世紀、現モロッコ王朝アラウィー朝によって首都に制定されたメクネスも、イスラム教が色濃く反映されている街。世界遺産であるこの古都の入り口にあるイスラム建築最高傑作のマンスール門が、その趣を物語っています。
またユネスコの世界遺産に登録されているモロッコのフェズ・エル・バリは、1000年以上も前にモロッコ初のイスラム王朝・イドリアス朝の首都となったメディナです。

モロッコの憲法では、国教はイスラム教であることが定められています。また、その最高指導者である現在の国王はイスラムの預言者、ムハンマドの直系の子孫であると言われています。
イスラム教には多くの宗派がありますが、多数のモロッコ国民に信仰されているのが正統派とも言われている「イスラム教スンニ派」。五行を守ることが義務とされ、厳しい戒律のもと、人々は規律正しく生活しています。
しかしフランスの統治下となり、モロッコに西洋文化が入るようになると規律が多少緩くなり、今ではマラケッシャやカサブランカなど大都市の、特に新市街では西洋の近代都市と同じような生活様式が見られるようになりました。

マグレブ地方では教義の戒律に従うことは個人の自由意志のようで、少数ですがキリスト教徒やユダヤ教徒も生活しています。


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悪魔から身を守るファティマの手

モロッコの世界遺産の特徴はメディナ(旧市街)全体が、ユネスコに登録されていること。つまり、歴史も含めて、現在そこに生活している人たちの営み全てが世界遺産というわけです。

ですから、世界遺産巡りの旅でモロッコを訪れたのなら、ぜひ自分の足で街をくまなく歩いてみてください。
散歩をするようにあてどもなく歩くのも楽しいものですが、何かをチェックしながら歩くと、より有意義に過ごせるでしょう。たとえば、歴史のありそうな家をみつけたら、そのドアに注目してみるとか。そこには手のひらを模したドアノッカー(ドアをたたくもの)が取り付けられていることに気づくはずです。
特に世界遺産の街「フェズ」や「古都メクネス」などに見られます。
これは悪魔から身を守るお守りの一種で「ファティマの手」と呼ばれているものです。
ドアノッカーの他にも、ペンダントや指輪、鏡、陶器にも描かれており、イスラム圏のあちらこちらで見られます。
見るからに「手」そのもののデザインから、親指と小指の長さが同じ「くまで」のようなデザインのものまであります。中には左右対称の凝ったデザインもあり、その形は多様です。

また5本の指は、イスラム教で神聖とされている数字「5」であることも象徴されています。
「ファティマ」というのは、予言者ムハンマドの4女、4代目カリフ(初期イスラム国家の最高権威者。アラビア語の「継承者」のこと)の妻となった女性の名です。26歳で亡くなったこの女性は、いつも貧しい人たちを気にかけ、率先して病人の手当てなどに努めたそうです。
ムスリムにとって理想の女性であるファティマ。慈悲深い救いの手が差し伸べられることを信じて、彼女の手をかたどったものをもつようになったそうです。

モロッコを訪れた際には、「ファティマ」の手をかたどった品をお土産に選ぶとよいかもしれませんね。きっとお守りとなってくれることでしょう。


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旅人を魅了してやまない街メディナ

モロッコのマラケッシュにあるメディナもユネスコ世界遺産に指定されている地域のひとつ。ここはアラブに数多くあるメディナのなかでも、もっとも旅人を惹きつける、魅力あふれる土地ではないでしょうか。

世界遺産に指定されているマラケッシュのメディナの主な見どころは次の5つ。 1.クトゥビア、2.皮なめし職人地区、3.ジャマ・エル・フナ広場、4.サアード朝の墳墓群、5.バイア宮殿、です。
マラケッシュで最も美しいと言われる門のひとつ「アグノウ門」もお勧めです。アグノウ門へはフナ広場からアグノウ門通りを南に進み、グランド・オテル・タジのある大きな交差点を渡ります。さらに直進すると広い道に出ますから、そこから斜め左に進みます。城壁がある広場に出ると門が見えてきます。また、新旧のスークやモスク、マラケッシュ博物館なども興味深い場所です。

マラケッシュのメディナの中心「ジャマ・エル・フナ広場」。ここでは大道芸人がそれぞれの得意技を披露して、地元の人はもちろん旅人たちの目も楽しませてくれます。日本で言うと縁日の様なところでしょうか。それが毎日開かれているのです。
夕暮れ時になるとジャマ・エル・フナ広場にはあふれるほどの人が集まってきます。広場にはモロッコ料理の屋台が立ち並び、お腹をすかせた人々の胃を満たしてくれます。
広場の北側にあるスーク街はモロッコ最大です。まるで迷路のようなスーク街を探索してみるのも楽しいでしょう。その入り組んだ路地に漂う歴史の香りがあなたを夢中にさせるはずです。